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第8話 エピローグ:有限要素法との出会いから現在の心境まで

筆者が有限要素法というものに初めて出会ったのは約30年ほど前のことである。当時、筆者が在籍していた土木工学科では多くの大学で3年生の夏休みに夏期実習を課していて、道路公団、民間企業に1か月ほど学生を送り込み社会勉強をさせてもらう制度があった(現在、この制度を維持している大学は少ないと聞く)。

血気さかんだった当時の筆者は2年生の時にも自主的に夏期実習を申し出て阪神高速道路公団に出向いて行った。今でこそ多彩な大型橋梁で縁取られている大阪湾だが、当時は画期的な規模のトラス橋であった南港大橋の建設中であり、そこの建設事務所にご厄介になったのである。

その事務所で見せられたのが橋脚を支えるケーソンの沈下解析で使用された有限要素法の解析結果である。当時のことだから、もちろん、懐かしい132文字出力のプリンター用紙の束である。筆者がやった仕事(仕事というにはあまりにおこがましいが)というのはプリンター用紙に印字されている節点の変位量を方眼紙にプロットしてケーソンの変位図を描くことであった。プリ/ポストプロセッサという気の利いた代物のなかった時代ゆえ面倒な作業の連続であった。

しかし、それから数年間ほどは有限要素法とは距離を置いた学生時代が続いてしまった。というのも、建築工学同様、土木工学部では構造解析といえば骨組構造の解析といっても過言でないほど梁理論をベースにした学問体系が磐石であり、伝統的にその周辺を勉強することが多かったからである。

当時、連続体までを扱う有限要素法を授業に採り入れている大学などなかったように思う。

何としても有限要素法をマスターしたくO.C.ZienkiewiczとY.K.Cheungの共著(吉識雅雄 監訳)"マトリックス有限要素法"や変分法の参考書を買ってきては猛烈(?)に独学したのが大学院1年の時であった。

ただ、大学院の研究では有限要素法を利用する場面はなく、書籍の上だけの学問に終わってしまった。これでは身につかないと思い、一念発起した筆者は有限要素法を利用する研究場所を求めて、別の大学へさらに1年間の研究生活を求めて移っていた。

元々、橋梁工学を専攻していた筆者は新しい研究場所で薄肉箱桁橋梁の応力解析に有限帯板法(FSM:Finite Strip Method)という有限要素法の変形版を適用する研究をさせていただいた。

これはスレンダーな構造形状を持つ橋梁の特質を生かして橋軸方向の変位分布をFourier級数で仮定し、橋軸直角方向の変位は通常の有限要素法で採用されている多項式を使用するタイプのもので、現在の流通コードの中において薄肉軸対称シェル構造でとられている要素タイプと同種のものである。

また、変位関数に単純な多項式でなく直交関数を適用する手法は、一時は従来の(H法)有限要素法を席捲してしまうかに見えたP法有限要素法のはしりであったかもしれない(P法では変位関数にLegendre多項式を利用している)。

社会に出て、土木コンサルタント会社で勤め始めた筆者は設計部門ではなく運良く好きな数値解析の仕事に従事することができた。

随分、いろんな解析プログラムを開発した中でも、特に、懐かしく思うのはU型構造橋梁の横倒れ座屈解析である。筆者が初めて実用に供したと思う有限要素法プログラムの開発であった。もちろん、開発が目的でなく結果を知るための手段としてである。

何年か社内で使用するプログラム開発に従事していた筆者が、ある工業系の新聞紙の数行に目が止まったのは確か、昭和55年(1980)だったと思う。

そこには(株)東洋情報システムという会社が有限要素法解析のためのプリ/ポストプロセッサとして"FEMAS"というソフトウェアを販売開始すると書いてあった。この記事に筆者は強烈な印象を受けた。というのもプログラムなんて自分で作って自分で使う物、せいぜい社内でユーザが存在するぐらいの物と思っていたので、それが商品として扱われるなんて思ってもみなかったからである。ましてや、有限要素法なんてその道の専門家が使用するようなプログラムが・・・。

FEMASに非常に関心を持った筆者はいつのまにか、(株)東洋情報システムの門を叩いていた。

熱弁を振るったせいか、人事担当者にも熱意が伝わり、割りとすんなりFEMASチームに参画させてもらった。それにしても、どこの馬の骨かも知れない人間が突然、訪れてきてFEMASをやらせてくれと言われた人事の人もさぞかし、驚いたことであろう。

筆者、32歳の頃の話である。

それから20年近く、開発部門と営業部門を数回、往復しながらも終始一貫、FEMASとの付き合いが筆者の30代、40代の会社人生であった。この期間、筆者が得たもので特筆すべきものが2つある。

1)FEMASは工業分野の多方面の顧客で使用されていたので、その関係上、製造業、建設業等、各分野のユーザとのお付き合いをさせていただき、いろいろなユーザの世界を垣間見ることができたこと。

2)FEMASとの関係上、NASTRAN系のFEMコード、SAP系のFEMコード、また、MARC、ABAQUS、ADINAといった非線形プログラムなど各種の汎用FEMコードの何たるかを知ることができたこと。

特に、後者のことが後に筆者がLISAを開発する際に大いに役立ったことは疑いもない。

そのLISA開発の契機となったのはWindows3.1の登場である。それに加えて、筆者の頭の隅に長年こびりついていたある思いもあった。

世の中に市販のFEMコードが流通し始めたのはコンピュータが汎用機全盛時代であり、ユーザにとっては非常にコストのかかるものだった。時代が進みハードウェアのダウンサイジングが始まりワークステーションがエンジニアリングの世界でもてはやされるようになっても、コストは下がったとはいうものの未だ有限要素法を利用しようとするとコストのかかるものだった。

設計者が手軽に有限要素法を利用して構造解析を実行するという訳にはいかなかった。ちょっとした構造解析をするにも高価なハード、ソフトを揃える必要があり、これを導入するには設計現場の人たちは経営者を説得するのに苦労だったのである。

筆者が営業をしていた時期、こんな例が多かった。

その顧客では熱伝導解析だけが設計に必要であり、その機能だけのプログラムを求めているのだが、一般に汎用型のFEMコードでは熱伝導解析は数ある解析機能のうちに組み込まれており、しかも、製品によってはオプション機能となっており、熱伝導機能だけを導入することはできず、結局全機能を購入することになりコストは変わらないのである。

ADINAのように熱伝導解析専用のプログラムが本体の構造解析プログラムと分離されている製品もあったのだが、熱伝導解析プログラムの単品販売は許していない状況であった。

筆者の思いというのは、何とか廉価で手軽に使用できる汎用FEMコードはできないものかということである。もちろん、Windows3.1が出る以前のMS-DOS時代にもANSYSとかCOSMOSといったプログラムも市販されていたが、何しろOSの制約が厳しいので機能限定版の感は免れなかった。

実はこのMS-DOS版の製品の時代があった故に後のPC(Windows)全盛時代になっても、PC版の汎用FEMコードでは機能限定版でスピードも遅いだろうという先入観が一部の顧客に根強く残ってしまったのである。

昔、大型機で有限要素法解析を実行していた顧客からPC版では何節点数まで実行可能ですかという質問をよく受けることがあるが、これなどがそうである。筆者はその都度、お客さんが以前、実施していた最大数の何倍~何十倍まで可能ですよ、しかも、スピードもそうですと答えている。

さて、長々と筆者の履歴めいた話を書いてきたが、最後に筆者が46歳にして初めて汎用型有限要素法プログラム(LISA)を開発した後(50歳を過ぎた現在も機能アップを続けている)、有限要素法に対して筆者が現在、持っている心境を述べてこのエピローグを締めくくりたい。

昔、有限要素法の世界では著名な方が本当に有限要素法を理解するには一度、自分でプログラムを作ってみることだとおっしゃったことがある。

これは至言である。LISAを開発するまでは何本も専用プログラムを作った経験のある筆者も汎用の(商用の)プログラムを開発してみて、有限要素法というのはユーザにも面倒な入力を強いるが開発者にとっても意外と厄介なものだというのが偽ざる気持ちである。

最近、思うのは有限要素法と隣接関係にあると思えるCADとの間柄である。

3次元CADの発達でたくさんのCADベンダーが誕生し、特にメカ分野の雑誌では毎号と言っていいほどCADの有効利用に有限要素法解析の使用を勧めている。そこまではいい。

問題はその各ベンダーの営業の仕方である。

CADシステムを売らんが為としか思えないような、安易な有限要素法プログラムの営業トーキングである。そのほとんどの営業マンは有限要素法というよりは工学問題に素人の人たちがほとんどである。安易に有限要素法を解説してしまうから、顧客はプログラムさえ導入すれば問題解決だと錯覚してしまう。

筆者が何回か経験したことだが、CADでお絵かきしたら後はワンタッチの操作で変形、応力が求められると思っている顧客層がいる。

有限要素法は万能でもなければ、ワンタッチで答えを出してくれる訳でもない。メッシュの切り方で答えも変われば、メッシュの歪みで答えも歪んでくるのである。

また、有限要素法を適用するのが妥当なのかどうかといった適用範囲も考慮する必要がある。

筆者は一時期、境界要素法(BEM)に入れ込んだことがある。3次元ソリッド構造には有効だと思ったからである。切り欠き部の応力集中問題などでの切れ味は有限要素法など遠く及ぶものでない。(だったら、BEMが普及したはずなのに、事実、一時期は大いに期待もされたのだが、BEMにもそれなりの問題点をかかえており、そうはならなかった)

工学問題の解法にはそれぞれ得意、不得意の対象があり、有限要素法もその例外に漏れず、ユーザもある程度の基本的知識を持つ覚悟が必要であり、有限要素法プログラムに自分から近づいていく姿勢も必要なのである。もちろん、何度も使用して経験を積み自家薬籠中のものとすることも重要なことなのである。

有限要素法は何も魔法の玉手箱ではない。単に数値解析法の一種(だが、他の数値解析法よりも利点が多いのも事実)であるという認識を持って戴いて有限要素法プログラムの導入を図ってくださいというのが、筆者から初心者ユーザへの贈る言葉である。


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